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主题:悪魔を憐れむ歌

帅哥哟,离线,有人找我吗?
xiaoking
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等级:版主 帖子:6554 积分:63790 威望:0 精华:1 注册:2006/4/21 7:31:53
  发帖心情 Post By:2020/9/13 16:12:14 [只看该作者]

「それは、こちらのセリフです…今度、再び皇帝陛下の御身に手出しがあらばその時は
あなた方の崇めるその神ごと全てを打ち滅ぼしてご覧にいれましょう…」

キルヒアイスの言葉に大司教は返す言葉を失くした。
最早立つ力もないのかがくりと肩を落としてそのまま椅子に腰を下ろすと、
その両手を顔にあてて小さな声でなんとか大司教が言葉を口にする。

『…迎えを、よこしてくれ、ルビンスキーを…引き渡す…』
「懸命な判断です…あなたは見事地球の危機を救われたのです。猊下…貴方に神のご加護を」
そういってキルヒアイスは大司教との通信を終わらせたのだった。

100年にも渡った地球教の野望は今まさにこれをもって打ち砕かれたのである。
彼らは地球から毎日月を見ながらこの日味わった恐怖を思い知ることとなるだろう。

大きな黒い穴を2つ空けた赤い月が今もなお彼らの天上を照らし続けていた。

キルヒアイスはその後ベルゲングリューンへの回線を繋いだ。

「ベルゲングリューン…交渉は無事に終わりました。
貴方はミュラー艦隊と合流してルビンスキーの身柄を押さえてください。
ミュラー艦隊には地球への運行が正常に戻るまでの間、物資の提供を続けて頂きます」
『は…ッ』

キルヒアイスは万一を考えて地上への突入部隊をベルゲングリューンに別働隊として指揮させていた。
勿論それはルビンスキーを捕獲するためのものである。

周到なキルヒアイスのその手並みに皆はひたすら舌を巻くしかない。

「ベルゲングリューンを向かわせていたのか…キルヒアイス」
「まあ…必要になる事態が避けられたのは何よりでした。
…実は、正直なところ大司教猊下も薬で頭がぼけてまともな話は出来ないのでは、
などと思っていましたもので」

あっさりとそんなことを言ってのけるキルヒアイスに皆はただ唖然とするばかりだった。

「…それではルビンスキーを捕らえた時点で地球への運行を再開させて下さい」
話しをしながらキルヒアイスが席から立ち上がる。

「キルヒアイス…?」
「そろそろ、お昼の時間です…陛下に食事をお持ちしなければ。
なんとかお昼に間に合ってくれて助かりました…」

そういってそのままキルヒアイスは皆を残して急ぐようにその場を立ち去ってしまう。

取り残された面々は最早言葉もでない。

「おい…もしかして、キルヒアイスが急いでいたのは…」
「…陛下のお昼の時間が近かったからなのか?」

ようやく顔を見合わせて出た言葉も
会議室の中がさらに沈黙を広げる結果になってしまったのだった。

確かに今回も実際には予想に反して血はほとんど流れなかった。
ほとんど無血ではある。

亡くなった者といえば先日の襲撃事件でキルヒアイスに眉間を撃ち抜かれたテロリスト一人だけだ。
だが流されなかった血以上にキルヒアイスが後に残したものは果てしなく大きなものだった。

それは誰もが今回の件で思い知ったことだろう。

特に地球に今なお暮らし続ける人々は
月を貫くあの二つの穴を毎晩見上げる度にこの日を思い返すに違いなかった。

やがてルビンスキーの引渡しを無事に終えたベルゲングリューンが艦隊を引き上げさせ、
ミュラー艦隊は引き続き物資の提供を続け地球への運行が無事再開されるのを確認して
フェザーンへと戻ったのだった。

こうして事件はルビンスキー逮捕で収まりを見せまた穏やかな日常がその姿を見せ始める。

ラインハルトの回復振りもそれからは見事なもので
その後1ヶ月を待たずして禁断症状から解放されたラインハルトは
皆の前に出ることが出来るようになったのである。

キルヒアイスを背後に伴わせて会議室に姿を見せたラインハルトのその姿に
皆は涙を浮かべずにはいられなかった。

「陛、下…ッ」
「皆には長らく苦労をかけたな…」
ラインハルトのその言葉にビッテンフェルトなどは感極まってその目から涙を流していた。

「いいえ、いいえ…陛下ッ」
「皆、席につけ…このままでは話も始められないだろう?」
ラインハルトの言葉に皆が自分の席へと戻っていく。
そこでふと自分の席にラインハルトが目をやるとそこには見覚えのある砂時計があった。

その視線に気がついたビッテンフェルトが慌ててそれの説明する。

「あの…っそれは自分がキルヒアイス元帥に頼んでそこにおいて頂いたのです」
「…そうか、いや。これには随分と世話になったな、余も…」
笑いながらそういうとラインハルトはその砂時計をそのままそこに置いたまま席へとついた。

「…そうだ、キルヒアイス。今から余の部屋に戻ってとってきて欲しいものがあるんだが」
「部、屋…?今から、ですか?」
席に着いた途端ラインハルトが思いついたようにキルヒアイスに話しかける。

「ああ…今しか駄目だ。引き出しにしまってある…だが、急がなくていいぞ?」
「は、あ…」
少し首をかしげたもののキルヒアイスは
ラインハルトから引き出しの鍵を受け取るとそのままその場を後にした。

キルヒアイスの姿が消えたのを確認してラインハルトは
早速今回の事件の詳細を記された書類に目を通し始める。

「…ラングを復職させたか」
「それは、その…」
ラインハルトの言葉にヒルダが弁明を入れようとするがラインハルトは手を翳してそれを制した。

「仕方あるまい…キルヒアイスが動こうにも
その間アイツは中毒患者の世話に明け暮れていたのだから、な」
「陛下…ッ」

ラインハルトの自嘲めいたその言葉にヒルダは慌てて言葉を返そうとするが
それも意に介さないままラインハルトは引き続き書類に目を通していく。

「…結局、亡くなったのは襲撃事件での一人だけという訳か。
まあ、これは…思ったよりはマシ、というやつだな…」
「マシ…です、か?」
ようやく目を通し終えたラインハルトがその書類を机に置いた。

「そうだ…アイツのことだ。キレて地球に核融合ミサイルでも撃ち込みかねんからな…」
ラインハルトのその言葉に皆がはっとするように静まり返る。

実際地球へは撃ち込まれはしなかったがあの時警告として
キルヒアイスは月へと核融合ミサイルを2発撃ち込んでいる。

モニターに映し出された赤い月に刻まれた2つの大きなクレーターの姿は
その日味わった恐怖とともに皆の記憶に焼き付いて消えることはないだろう。

「…キルヒアイス元帥は神をも恐れません、陛下」
「それでいい…アレのすることに神の許しなど必要ない。
今までも、そしてこれからもそうだ。アレの全てはこの余がその全てを許す…」

ラインハルトは皆にそう宣言するとその言葉に皆が息を飲んだ。
だがそのままラインハルトは更に言葉を続けた。

「分からぬか…?余はこの世で最も敵に回したくない者だからこそ
自分の唯一腹心の親友として傍に置くことを望んだのだ、
今回の件で…それは皆にも分かったのではないのか?」

返す言葉がないとはまさにこの事である。

これまでもキルヒアイスのその実力は皆の知るところにあったが
今回の件で、最早誰もがラインハルトの傍にいるキルヒアイスの存在を認めない訳にはいかないだろう。

「おっしゃる通りです…敵に回せばこれほど恐ろしい男を私は他に知りません」
「味方であったことに感謝したいものですな…」
皆も相槌をうってラインハルトへ言葉を返した。

「…昔からそうだが、アレはこと姉上と余のことに関しては加減というものを知らぬのだ。
かつてアレを本気で怒らせて生き残ったものなど…ああ、一人いたな。そういえば」
「陛下…?」
ラインハルトが聞き返すミッターマイヤーと隣のロイエンタールを見ながら話しを進める。

「卿ら、覚えてないか…?ガイエスブルグ要塞で旧貴族…いや、賊軍との戦いの時のことだ。
オフレッサーという化け物がいただろう?」

オフレッサー上級大将。
すでにこの世にはいないが旧帝国ではその怪物じみた容姿と残忍な殺しぶりから恐れられていた男である。
その当時、白兵戦において彼は無敵を誇っていた。

だがその時キルヒアイスはガイエスブルグにはおらずラインハルトの代理として
辺境星域の平定を命じられその場にはいなかった。

オフレッサーを生かしたまま捕らえるという命令をラインハルトに命じられ
ミッターマイヤーとロイエンタールは白兵戦を展開するも、
それは悉くオフレッサーの返り討ちにあって艦隊の多くの白兵戦部隊が壊滅に追い込まれた。

結局ミッターマイヤーとロイエンタールが二人がかりで自らを囮にして
罠を仕掛けてなんとかオフレッサーを捕らえたのだ。

まともに一対一でやりあおうなどとは考えすら及ばない相手である。

「オフレッサーがキルヒアイスがいないのをいいことに
モニターで余に戯けたことを言いたい放題抜かしていただろう…?」

それはオフレッサーがモニター越しにラインハルトに贈ったメッセージにあった。

『オマエを守る赤毛の男は今ここにはいないぞ…』
そう言っていたのである。
ようやくそれを思い出した二人はラインハルトに話を聞き返した。

「…キルヒアイスとオフレッサーは、以前になにかあったのですか?」
「あったもなにも…あの猛獣に引き裂かれただの、
いろんな噂が飛び交っていたあの顔の傷跡…アレは、キルヒアイスがやったものだ」

その言葉に皆が目を見開いてラインハルトに話の先を促すように眺める。

「確か、幼年学校の頃だったな…どうも、あの馬鹿。
キルヒアイスの前で酷く姉上を侮辱する言葉を口にしたらしくてな。
生きたままキルヒアイスにその目を抉られたのよ…ザマはない。
オフレッサーからすればあの時のキルヒアイスは確かに猛獣であったかも知れんが…余が止めねば
両方の目はキルヒアイスによって抉り取られていたことだろうよ」

おかげでキルヒアイスの前ではすっかりおとなしくなって自分の前では文句をいうことがなくなった。
などと、オチまでつけて笑ってラインハルトは皆に聞かせてやった。

「…まあ、結局は死んだがな…アレも」
オフレッサーの恐ろしさはここにいる誰もがその記憶に新しい。
ミッターマイヤーやロイエンタールは実際にそれを身を持って経験している。

聞いただけでも背筋が冷たくなるような話だった。

「…なにを、話し込んでいらっしゃるのですか?」

そこにいる全員が一瞬その声に身をびくりと震わせた。
噂の主であるキルヒアイスが会議室に戻ってきたからである。

皆の様子に首を傾げながらキルヒアイスは自分の席へと着いた。

「いや、なに…オマエを怒らせると怖い、なんて話をしてたのさ」
「怖、いですか…?」
キルヒアイスはラインハルトの言葉に考え込むように手を顎において顔を俯かせる。

「怖いぞ…相当。オマエ、自覚ないんだ…?」
「なにがです…?」
そのまま視線を逸らさずキルヒアイスはラインハルトにその目を合わせて真面目にそう答えると
呆れた顔をしてラインハルトは今度は話題を変えてキルヒアイスに話しかける。

「まあ…いいか。ところで…探しものは、見つかったのか?」
「はい…」
それまでにない笑顔でキルヒアイスはラインハルトの言葉に返事を返したのだった。
キルヒアイスのその返事にラインハルトもまたこれ以上にない笑顔で頷いてそれに答える。

「そうか…それは、なによりだ」
そういってラインハルトは再び会議を再開させた。

「…皇帝誘拐を企てた実行犯を流刑に?極刑ではなく、か…?」
報告書に目をやりながらラインハルトが意外そうにキルヒアイスの方に目をやった。

「はい…極刑をご希望でしたら…そのように、すぐに手配致しますが」
遠慮がちにそう答えるキルヒアイスにラインハルトは笑って返事を返す。

「はは…いや…いい。やはりそれがオマエらしいよ、キルヒアイス…皆も、そう思うだろう?」

「はい」
ラインハルトのその言葉に頷きながら皆がキルヒアイスに顔を向けた。
それこそ皆の知るいつものキルヒアイスだからだ。

皇帝誘拐をした以上本来なら厳罰をもってあたるべきことではあったのだが
こと相手がヴェスターラントの被害者である上に地球教によって家族を人質に取られ
麻薬の中毒患者にまでされていたのならばそれ以上のことは当事者のラインハルトが認める以上
皆にはなにも言い返すことなど出来ない。

”私には彼らを罰する資格などなかった…
彼らにもまた守るべきものがあり、そのために命をかけたのだ…
再び事を起こそうとするなら容赦をする気はないが、
ラインハルト様がご無事であったのならばそれ以上のことはすまい…”

そう考えてのキルヒアイスの決断だった。

辺境星域での強制労働とは刑を執行するためにその名をつけただけの名ばかりのものだった。

皇帝誘拐に失敗した彼らは拷問から解放された後手厚く看護を受けてその身を回復させると
家族との再会を果たして新しい土地と家を手に入れていた。

そこに同行したケスラーに彼らはキルヒアイスからの伝言を聞かされることになる。

『失われたヴェスターラントの血はこの身の生涯全てをもってしても決して購いきれるものではありません…
ですが、これからのあなた方の幸福な生活を守るためにこれからも私達は戦いを続けます。
住むべき土地を無残にも奪われたあなた方にはその幸福を主張する権利があり、我々にはそれを守る義務がある。
永遠の平和をお約束することは叶わなくともローエングラム皇帝陛下のおわす限り、
この誓い、必ず果たしてご覧にいれましょう…
今はただあなた方のこれからの幸福を私は祈らずにはいられません』

そう長いものではなかったがキルヒアイスの肝心な想いは彼らに伝わったようだった。
彼らはその返事の代わりにとケスラーに一言の伝言を預けていた。

『私達はこの遠い空の下からあなた方の誓いと
その全てを見続けましょう…子々孫々に到るまで』、と。

その日の午後ラインハルトはヴェスターラントの慰霊祭に参列していた。

ラインハルトは元々この式典に合わせてその体調を整えていたのである。
ヴェスターラントの関係者の前で壇上に上がったラインハルトは演説の最後をこう締め括った。

「…全ては、その時若輩で力いたらぬ余の力にあった。
ヴェスターラントの被害者、そしてその親族に到るまでこれからの幸福は
皇帝の名のもとに全力をもってこれを保証するものである」

ヴェスターラントの件はまだまだ解決には時間が必要な問題である。
だがそれはこれから善政を布いて贖うより他に道はない。

その流された血よりも遥かに多くの血を救うことだ。
ヴェスターラントの過ちをラインハルトはすでにその身に染みて思い知っている。

自分に迷いは許されないということ。
そしてその迷いは再びヴェスターラントの悲劇を招くということを…

あの時、自分に少しの迷いさえなければ未然に防げたことなのだ。

”だからこれからは決して迷いはしない…この身をもってオレはそれを証明し続けてみせる”

この先どれほどの苦難がこの身を襲おうとも
傍にはいつもと変わらないキルヒアイスの姿がある。

傍にいるキルヒアイスの姿を確認しながらそう心を決めるラインハルトだった。

ラインハルトが壇上で話しをする中、
キルヒアイスは会議室から部屋へと戻るように言われた時のことを思い返していた。

ラインハルトから貰った鍵で引き出しを開けると
そこには一冊の本があり、本を開くと挟みこむように手紙が入っていた。

それはキルヒアイスにあてたラインハルトからの手紙だった。

いつも傍にいるせいか正直ラインハルトから手紙を貰ったのはこれが初めてのことである。

通信モニターを介して会話することはあっても
手紙でのやりとりなどはこれまでには皆無のことだった。

封筒に自分の名前を確認するとキルヒアイスはそっとその封を開けた。

『キルヒアイス…こうしてオマエに手紙を出すのはなんだかひどく恥ずかしくて照れくさいものだ。
だが、こうでもしないととても今のオレには自分の口からは言えそうにない…
オレはオマエにどうしても言っておきたいことがあるんだ』

ラインハルトからの手紙はそんな始まりだった。
ラインハルトがキルヒアイスにどうしても言っておきたかったこと。

それは…

『今のオレが欲しいもの、なんだか分かるか?
でもオマエならきっと言わなくても分かってくれるだろう?』

”今の貴方が欲しいもの…それは、今の私と同じものでいいのでしょうか…”

『もちろんそれは薬なんかじゃない、オレはもうちゃんと思い出しているぞ?』
浮かぶ涙に文字が薄れてキルヒアイスはまともにその手紙をみることが出来ないでいた。

零れようとする涙を手の平に押さえ込みながら、
ラインハルトの手紙の文面がキルヒアイスの目の中に入ってくる。

『…オマエはいつも、オレと一緒に同じ思いを感じてくれるだろう?』

二人はあの日を境に身体を重ねることがなくなっていた。
だが二人とも自分からは決して言い出せない状況にあった。

キルヒアイスはラインハルトを傷つけてしまった自分を今でも許せないでいたし、
ラインハルトもまた皇帝の名を使って命令してその行為を強いてしまったことに深く後悔を覚えていたからだ。

”ラインハルト様…”

『…なあ、こうは思ってはくれないか。オレ達は一緒にいなきゃ駄目だ…
オマエでないとオレは駄目だし、オマエもオレでないと駄目であって欲しい…だから、キルヒアイス』

”そうです…私はあなたがいないと駄目です…あなたでないと”

『だからオレはあの時の自分を忘れない…もう二度と同じ過ちを犯さないために。
だからオマエも無理に忘れることはない、だがオレはその全て許すよ…そう、決めたんだ』

”ああ…ラインハルト様…私は今、あなたに会いたい…
今この場に貴方がいるならば貴方を息が止まるほどに抱きしめて閉じ込めてしまうのに…ッ”

懐かしいのはその記憶に残るラインハルトの体温。
自分より幾分低いラインハルトの身体の熱が自分の与えた愛撫によって熱くなりその姿を変えていく。

そしてその腕を開いて自分の全てを受け入れてくれるラインハルトの姿がキルヒアイスの脳裏に浮かんだ。

『だから…オマエも全て許してやってはくれないか…?』
そこで手紙は終わっていたが、ラインハルトのベッドに座り込んだまま
キルヒアイスはそこから身動きをすることが出来ないでいた。

手紙を握りしめキルヒアイスは空いた手でその顔を押さえ込む。
震える身体を必死に押さえ込みながら何度もその手紙に書かれた言葉を反芻させていく。

”…やはり、あなたには誰も敵わない…ラインハルト様”

そんなことを心の中で呟きながらキルヒアイスは手紙を自分の部屋に片付けると
気を落ち着かせてラインハルトの待つ会議室へと戻ったのだった。

「キルヒアイス…どうした?ぼっとして」
その言葉にキルヒアイスが一瞬で回想を打ち切ってラインハルトを見やる。

「いえ、なんでも…」
「…なんだ、せっかくのオレの演説を聴いてなかったのか?」
キルヒアイスの様子にラインハルトがからかうように笑いかけた。

「ちゃんと聞いておりましたよ…ラインハルト様」


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  发帖心情 Post By:2020/9/13 16:12:27 [只看该作者]

「本当か…?」
「本当ですとも」
疑い深い目で眺めるラインハルトにキルヒアイスも笑ってそう答える。

獅子の泉を覆った暗闇は最早消え去り今のラインハルトの背には輝くばかりの太陽の姿がある。

そして黄金の髪がその光を受けてなお一層輝きをましてラインハルトを神々しい存在へと変え、
その美しい輝きは常に全ての人々を圧倒する。

”いつも思うが、この方には本当に太陽がよく似合う…”
光の中をゆくラインハルトを見つめながら、キルヒアイスはそんなことを考えていた。

獅子の泉の暗闇が明ける日を皆とともに心待ちにしていた二人だったが今本当に待っていたのは
暗闇の中苦しい想いを抱き続けた夜に終止符を打つための二人だけの今夜のことだった。

悪魔を憐れむ歌/終章?5.獅子は微睡む-1
いつか貴方と二人誰もいない場所へ行くことが出来たなら
などとあなたとそんな話をしたことがありましたね

今の私たちにはそれはとても遠く今ではまるで御伽噺のような話になりますが
あなたは変わらず私と同じその夢を見続けてくれていたのだとこの日私は初めて知りました

あなたが本当に望むなら叶えられないことなどなにもないことを私は知っている
そうして今宇宙に君臨するあなたの姿を今までずっとその傍らで私は見続けてきたのですから─

私はこれからもそんなあなたに導かれるままそれに付き従い続ける事でしょう

ヴェスターラントの慰霊祭を終えたラインハルトは
身体の全快祝いもかねてその日の夜はささやかな園遊会を催していた。

もともと華美をあまり好まないラインハルトであるため
それはアンネローゼとその親しい知人たち、そして自分の部下やその家族といった
ほとんど内輪の間で開かれたものだった。

園遊会というよりはホームパーティのような雰囲気のものである。

忙しい中、皆が交代で園遊会に参加してラインハルトの全快を祝いにやってきていた。

そろそろ夜も更け始め食事を終えた提督達が
端のテーブルに集まり腰を落ち着けて食後酒を楽しみ始めている。

「いや~…いい酒だ」
そういったのはビッテンフェルトである。

ラインハルトの回復を祝い、
早々に仕事を片付けてラインハルトに祝いの言葉を言いにやってきていた。

そのため早くから飲み始めており酔いも随分と回っているようである。
脇でミュラーがビッテンフェルトのその様子を心配そうに見守っていた。

ミッターマイヤーも妻子を連れ立ってこの園遊会に参加していたが、
女性達がかたまって談笑を始めたのを頃合いにこちらに合流したようである。

ミッタマイヤーもまた隣にいるロイエンタールと話をかわしながら
久しぶりに美味しい酒を楽しんでいた。

そんな時にまたしてもミュラーが噂話を持ち出してきたのである。

「…実は、こんな話を先月伺ったのですが」
「なんだ、またかミュラー…今度は、一体どんな話だ?」
普段、提督達はなかなか全員で集まる機会がない。

だからこの園遊会は情報交換にもうってつけの集まりでもあった。
皆が興味津々にミュラーの話に耳を傾ける。

「キルヒアイス元帥が先月、ホテルでとある女性と密会をしていたと耳にしたのです…」
小声で告げるミュラーの言葉を聞いた皆が顔を見合わせる。

「…密会ッ?キルヒアイスが?ほんとか、それは!?」
「ほほう…それが本当ならばなかなかやるではないか、キルヒアイスも」

その話に皆が胡散臭げに半信半疑の目でミュラーを見やるが
ミュラーもそこで引き下がらない。

「ですが、ホテルのロビーでその女性と口付けを交わすところをウチの部下が目撃しているのですよ」
ミュラーのその言葉にその話を聞いていた皆が静まりかえった。

確かにキルヒアイスは回りの女性が放ってはおかないほどの美丈夫ではある。
だが今までにキルヒアイスのそんな浮いた噂などまったく耳にしたことがない。

「…なにか、カンチガイじゃないのか?」
「ううーん…」
皆が普段のキルヒアイスからはどうしてもその話を信じることがが出来ないでいた、その時である。

「なにか、面白そうな話をしているではないか…」
その声に全員が身体をびくりとさせて振り返ると、
そこにはこの皇帝の居城?『獅子の泉』の主である皇帝ラインハルトの姿があった。

「陛下…ッ!!」
全員がその姿に驚いて立ち上がろうとするのをラインハルトが手を挙げて制した。
そしてそのままラインハルトがテーブルの空席に腰を落ち着ける。

「…で、今の話本当なのか?」
ミュラーにその話の続きを聞こうとラインハルトが迫った。

「それは…その…えーと、ですね」
「なんなら、本人に直接聞くか?その方が、早い」

そういって言い淀むミュラーを脇目に
ラインハルトは近くの者を呼び寄せるとキルヒアイスを向かえにやった。

「陛下…ッそれは少々まずいのではッ!?」
「なんだ…どう、まずいのだ?」
ラインハルトの言葉に皆が言葉を返すのを躊躇った。

あまりに真実味がない話の上普段のキルヒアイス本人からもそういった雰囲気を微塵と感じさせないために
そういう話を持ち出す事自体皆には憚られたのだ。

「…別にアイツは聖人君主、とかではないぞ…何に気を使うことがある?」
「そ、それは…そうかも知れませんがっ」
ラインハルトは首を傾げながらそう答えると皆が返答に困ったように顔を下に向ける。

やがてラインハルトに呼ばれたキルヒアイスがテーブルにやってきた。
ラインハルトは隣の空席に手を差し伸べてキルヒアイスを招くとそこへ座らせた。

皆からの異様な視線を一身に浴びたキルヒアイスが首を傾げながらラインハルトに訊ねる。

「あの、何か…?」
「いや、な。ミュラーの知り合いが先月オマエがホテルで女性と密会しているのを見かけたというのだ…
実際のところはどうなのだ、キルヒアイス?」

”それはあまりにストレート過ぎです、陛下…ッ!”

ラインハルトのあまりな直球な物言いに全員が同じ心の叫びを上げて固まってしまった。
そしてそのまま様子を伺うように皆がキルヒアイスに視線を向ける。

「ホテルで女性と密会…私が、ですか?」
「ああ…やはりデマなのですね、申し訳ありません。
キルヒアイス元帥、ウチの部下がそのような戯言を口にしておりましたもので…」

首を傾げて考え込むキルヒアイスにミュラーが非礼を詫びたが、
キルヒアイスが何かを思い出したように言い返してきた。

「思い出しました…あれは、密会ではないのですよ」
「…っておい、キルヒアイスッそれって事実ってことか!?」

身を乗り出してキルヒアイスに聞き返したのはミッターマイヤーだった。
事の成り行きを見守ろうとしていたラインハルトの方へ顔を向けるとキルヒアイスはその説明を始める。

「ええ、あれは先月。陛下に頼まれた件でその女性と待ち合わせをしていたのです…
陛下、覚えておりませんか?」
「…待ち、合わせ?」

ラインハルトは眉を顰めその心当たりを思い出そうと記憶を辿る。

「ええ…ヴェスパトーレ男爵夫人に頼まれ事をされたでしょう?」
「ああ、あれかッ!?」
キルヒアイスの言葉にラインハルトは瞬時に記憶を甦らせた。

「確か…オマエを貸してくれって頼まれたのだ。
どうしてもって言われて…で、なんだったのだ?その用事っていうのは」

「はあ、それがですね…私もその用件を知らされないままホテルに呼び出されたのですよ」
キルヒアイスは顎に手を当てたまま首を傾げさせてその時の事を説明し始める。

キルヒアイスが呼び出しを受けたホテルのロビーで待っていると
ヴェスパトーレ男爵夫人がそこにやってきて突然強引にその唇を奪われたのだという。

「どうやら…聞いた話では、お見合いの話があったようです。
恩のある親戚の侯爵からの薦めでどうしても断れなかったらしくて」

「…で、オマエがその間男を演じるハメになった訳だ」

流石にキルヒアイスが相手となれば見合い相手も引き下がらない訳にはいかない。
見合い相手の恋人が皇帝ラインハルトに次ぐ地位にある元帥ともなればその相手にもならないからだ。

「じゃ、オマエの密会の相手ってのはヴェスパトーレ男爵夫人なのか」
「別に…密会ではありませんが、そうなりますね」
そこで収まると思われた話だったが酔ったビッテンフェルトが更に話を突っ込んできた。

「…だが、ヴェスパトーレ男爵夫人とは以前から噂は囁かれておるが、実際のとこはどうなのだ?」
「ビ…ビッテンフェルト提督ッ」
その言葉を止めようとミュラーが慌てて隣に座るビッテンフェルトを肘でこづく。

「実際もなにも…大体あの方には、他に…」
キルヒアイスがそう言いかけていた時だった。

噂の主であるヴェスパトーレ男爵夫人が
背後からキルヒアイスの頭を抱きこむように押さえ込んできたのである。

「…ジーク、それ以上喋ったら…許さないわよ?」
そういってそのままキルヒアイスの顔を自分の方へと向けさせた。

「あ、そうでした…これは確か内密とのことでした。失礼しました、マグダレーナ嬢…」
「分かればいいのよ…ジーク、もうすぐ帰るから家まで送ってくれるわよね?」

有無をいわせないヴェスパトーレ男爵夫人の言葉である。

だがラインハルトの前でこれ以上余計なことを話して欲しくもなく
キルヒアイスは話を終わらせるためにヴェスパトーレ男爵夫人の申し出を承諾したのだった。

「わかりました…」
キルヒアイスの素直な返事に納得を見せた男爵夫人は
そのまま手を振って皆の輪のなかへと再び戻っていった。

そんな二人のやりとりを不思議そうに見ていたラインハルトだったが
ふとなにかを思いついたようにキルヒアイスに言葉をかける。

「…オマエ、男爵夫人に頭が上がらないのは知っているが、男爵夫人の事は名前で呼んでいるのだな」
「実は…名前で呼ばないと返事をなさって下さらないのです…それで、やむなく」

名前で呼ばないと返事をしない…

その言葉でラインハルトは頭の中にひらめきが浮かんだ。

「それ、だ…キルヒアイス」
「な…なにが、です?」
キルヒアイスの中で長年親友として付き合っていたラインハルトのその態度に一瞬嫌な予感を走らせる。

「決めた…オレも今度、公式の場でもないのにオマエがオレを陛下と呼んだら返事をしないことにする…」
「それは困ります、陛下…ッ」

ラインハルトのその言葉にキルヒアイスは慌てて言い返すが
その先を言う前にキルヒアイスはラインハルトに今度は胸倉を捕まれて
さらに追い討ちのような言葉を続けられた。

「いいか…ッ今度オレを陛下と呼んでみろッ…!オマエに対してのみ不敬罪を適用してやるからなッ」

正直、ラインハルトは禁断症状の間キルヒアイスと身体を重ねる時、
陛下と呼ばれたのが思い出したくないほど嫌だった。

ラインハルトからしてみればキルヒアイスの口からは
もう2度と陛下という言葉は聞きたくないというのが本音だ。

だが皇帝の立場にある以上それが無理なことはラインハルトにも分かっている。
それでもなお返事を返さないキルヒアイスにまわりからの仲介が入った。

ロイエンタールである。

「…オマエの負けだな、キルヒアイス。まあ、別にいいではないか…
オレ達も公式の場以外ではオマエのことは敬称無しでそのまま呼んでいるのだし」
「だな。まあ、今更誰も文句など言わんさ…オマエと陛下が幼馴染なのは周知の事実だ」

ロイエンタールの言葉にミッターマイヤーがフォローに入るとそこにいる皆も相槌でそれに答える。

「…ですが、そういう訳にはまいりませんッ」
「そうなのか…?なら、問題ないな。キルヒアイス」
キルヒアイスの否定をものともせずに思いもよらない助け舟が入ったラインハルトは
更に強気にキルヒアイスにニヤリと笑ってそう答えたのだった。

まだ、キルヒアイスは納得のいくところではなくラインハルトにも曖昧に頷くしかない。

話のきりのいいところで落ち着いたのでラインハルトはその腰をあげた。

「…なら、オレは姉上を連れてそろそろ部屋へと引き上げるとしよう…
今日は、楽しい時間を過ごさせて貰った、皆に礼を言う」

ラインハルトは皆にそういうと笑って礼を述べた。
皆も後に続いて立ち上がり礼をもってそれに答える。

ラインハルトが噂話の礼とばかりにミュラーに言葉をかけた。

「そうだ…ミュラー。こういうのは、どうだ?」
「え…?」
ミュラーがラインハルトのその言葉に顔を上げた時のことだった。
ラインハルトが隣にいるキルヒアイスの唇に軽く自分のそれに触れさせたのだ。

「陛、下…っ!!」
キルヒアイスが驚きの声をあげてその口元を手で覆った。

その言葉に睨みを効かすようにラインハルトが下から見上げてキルヒアイスを見つめ返す。

「今、なんていった…?」
「ライン、ハルト様…なんて、ことを…」
慌てて名前で呼び直したキルヒアイスがわなわなと震えだす様子を
ラインハルトは悪戯に成功した子供のような笑い声でそれを受け止めた。

これは男爵夫人にまんまとその唇を奪われてしまったキルヒアイスに対する
ラインハルトの嫌がらせもかねてのことだったのである。

「ははは…っこれで、また噂のタネが出来たじゃないか」
「笑い事ではありません…ッそれでなくとも私達、昔からよからぬ妙な噂が流されているのに…ッ!」

ラインハルトは怒るキルヒアイスがまた可笑しくて笑い声が止まらない。

「ラインハルト様、あなた酔っていらっしゃいますね!?
一体、どのくらいお酒をお召しになったのです?」
「ふふ…これで2本目。だが、オマエが早く男爵夫人を送ってこないとなると
部屋でまた1本空けることになる…だから、早くいってこい」

笑いながらラインハルトはそういって皆に手をあげるとアンネローゼの元へと立ち去っていってしまった。

その後、取り残された提督達とキルヒアイスは異様な沈黙に覆われていた。

「あの…提督方。陛下は、酔っておいでなのです、よ?」
だが額に手をやってそう弁明するキルヒアイスの声は
途方にくれてしまった提督達の耳に入ることはなかったようである。

”ああ…ッ一体どうしてくれるのですか、ラインハルト様!”

ラインハルトが去った後、提督達のいるテーブルに残されたキルヒアイスは
そのまましばらく気まずい空気の中に晒される羽目になってしまったのだ。


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帅哥哟,离线,有人找我吗?
xiaoking
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  发帖心情 Post By:2020/9/13 16:12:39 [只看该作者]

男爵夫人からのお呼びの声がかかるその時まで。

その後キルヒアイスは男爵夫人を屋敷まで無事送り届けるとそのまま再び獅子の泉へと戻った。

そして大きな溜め息をつきながら自分の部屋へ入ったところで
キルヒアイスは自分のベッドの上にいるラインハルトの姿を見つける。

悪魔を憐れむ歌/終章?5.獅子は微睡む-2
「…なにをなさっておいでです?ラインハルト様」
「オマエのベッドで一人酒盛りをしているんだが…見て分からないのか?」

ラインハルトはけろりとした口調でそう言ってのけたが、
流石にキルヒアイスもそこで引き下がりはしなかった。

「もう、駄目です…ラインハルト様、今夜はお酒の量が過ぎますよ」
「…ふむ、今度はアル中にでもなるかな」
ラインハルトは今夜とてもいい酒を飲んだようだった。
気分がいいのかラインハルトからはこれまでにない安堵の表情が見て取れる。

「冗談ではありません、まったく…」
そういってキルヒアイスがラインハルトが手に持ったワインを取り上げると
そのまま部屋のワインセラーへと片付けた。

「キルヒアイス…」
ベッドの上で膝をたて両手を開いてラインハルトがキルヒアイスを招く。
その声に導かれるままキルヒアイスはベッドに腰掛けるとラインハルトを抱きしめると
ラインハルトがキルヒアイスのその背に腕をまわした。

「…もう、随分とオマエの背中に触れてない。ずっと、こうしたかった…」
「そうですね…貴方がつけた背中の爪跡、もうすっかり消えてしまいましたよ」

二人が身体を重ね始めてからラインハルトによってキルヒアイスに時折つけられた背中の傷跡は
ほとんど絶えることはなかった。

だが、今回の件でその傷跡はすっかりキルヒアイスの背中から消えていた。

ラインハルトがキルヒアイスの背中にその指と辿らせ
キルヒアイスがラインハルトの感触を確かめるようにラインハルトを掻き抱く。

それはまるで互いの存在を温もりで確認しているような抱擁だった。

ラインハルトがキルヒアイスの頬を挟みこむとそのまま自分の唇をあわせた。
そのまま唇をわずかに離してラインハルトはキルヒアイスに小声で囁く。

「また、つけていいか…?」
ラインハルトの言葉にキルヒアイスはラインハルトの手を自分の背中に回させて
唇を重ねることでその答えを返したのだった。

そのまま月明かりに照らされた二人の影が部屋の中で折り重なった。

二人は先を急ぐように互いの服を脱がしあいその肌を求めあう。
そしてかつて身体を重ねた時のようにキルヒアイスはラインハルトの肌を愛しんでいく。

手で、唇で。その温もり全てで。
ああ…自分はこれが欲しかったのだと、互いがそう感じていた。

言葉だけでは伝わらない温もりと、触れ合うことでしか感じられない労わり。
身体を重ねるときの一体感とその時一緒に重なるその心こそ今二人が求めていたものだ。

二人は幼年学校の頃から身体を重ねてきた。
傍にいるだけでは足りない何かを埋めるように今まで互いを求め続けてきたのである。

今、身をもって二人はそれを感じていた。
それは身体だけでは埋まらないものであり、だが心だけでもそれは足りないものだった。

「…今まで、この温もりなしで…どうやって、夜を過ごしてきたのか分からない」
「私もです…ラインハルト様」
同じ夢をみよう…そういったのはやはり幼年学校時代の時の話だ。
それから二人は同じ夢を共有しながら供に夜を過ごしてきた。

時にこんな風に身体を重ねて。

ラインハルトの左胸に唇を寄せるとキルヒアイスはその胸の飾りを唇で吸い上げると
ラインハルトはその背を逸らしてキルヒアイスの頭を抱え込んだままそれを受け止める。

「ん…ッ」
両手で胸の尖りに愛撫をしながらキルヒアイスの舌がそのまわりを辿って下へと降りてゆき
やがてそれはラインハルトの下肢に及んだ。

ベッドに腰掛けていたキルヒアイスの愛撫を膝を立てて受けていたラインハルトだったが
すでに膝は下肢の熱により立っているのがやっとの状態だった。

「ふ…う、んんッ」
キルヒアイスに自身を含まれるとたちまち膝から力が抜けてしまったが
キルヒアイスの両手によって支えられた身体は
そのままベッドに腰を下ろしてしまうことが出来ない。

ラインハルトはキルヒアイスの髪を震えた手で掴みあげながら惜しみなく与えられる愛撫を堪える。

「あ、ああ…んッキルヒ、アイスッ」
ラインハルトの声でその限界を悟ったキルヒアイスが
そのままラインハルトを口に含みながらその指先をラインハルトの奥へと忍ばせた。

「んッあ…は」
両手の指に入り口を撫でられてそのままキルヒアイスの指を奥へと受け入れると
ラインハルトはそれに堪えきれずにキルヒアイスの口の中へ自身を解放させてしまう。

「や…ああっ!」
「ライン、ハルト様…」
指を奥に差し入れたまま下から仰ぎ見るようにキルヒアイスがラインハルトを呼んだ。

その言葉に答えるようにラインハルトはキルヒアイスの眉間に唇を寄せると
そのままラインハルトは身体を屈ませてキルヒアイス自身をその口に銜え込む。

「ん、う…ッ」
ラインハルトはキルヒアイス自身を口に銜えこんだままキルヒアイスの指先を奥へと受け入れていた。
時折キルヒアイスから漏れる熱く低い声が心地よくラインハルトの耳に届く。

「…ラインハ…ルト、様」
キルヒアイスの呼ぶ声にラインハルトはその名を呼ばれる幸せに浸っていた。

「もう…しい、です。ライ、ンハル…ト様」
キルヒアイスの苦しそうな声にラインハルトが顔を上げる。

かすかに届いた声にラインハルトは笑みを浮かべ
その褒美を与えるようにキルヒアイス自身から口を離して
そのままキルヒアイスを奥へと受け入れる。

「…あッんん」
ラインハルトが苦しそうな声を上げながらゆっくりと腰を下ろしてキルヒアイス自身を飲み込んでいく。
そしてその全てを飲み込んでラインハルトはキルヒアイスの大腿に腰を下ろした。

熱に浮かされたまま二人は視線を合わすと
そのまま引き合うように唇を深く重ね、舌が絡み合うと同時に腰が動き始める。

キルヒアイスを飲み込んだラインハルトの奥が熱くそれに絡みつき
腰の動きにあわせて貪欲に貪り始めた。

ラインハルトの熱い内部に締め付けられて眩暈を覚えながらキルヒアイスは
ラインハルトの身体を抱えたまま下から突き上げてそれに答える。

ラインハルトは嬌声を上げ続けキルヒアイスの背に爪をたてて更にキルヒアイスを求めた。

「…んっ…もっと…あ、あんっ」
一つになった二人はそのまま自分に足りない何かを補うように互いを求め続けたのだった。

「ずっと…ずっと、欲し、かった…」
「…もっ、と」
二人を捕らえる熱は中々その治まりを見せず、時間を忘れて身体を重ね続けた。

「このまま…離れたくない、な」
キルヒアイスの上に重なるように身体をうつ伏せにしているラインハルトは
そんな言葉を口にしながら自分の奥に受け入れたキルヒアイスを決して解放しようとはしない。

その言葉に答えるようにキルヒアイスもまた
ラインハルトに何度も唇をあわせてそれに答えた。

触れるような口付けから離す度にその角度をかえ徐々に深く舌を絡ませていく。
互いの熱は治まるどころかさらにその高まりを見せるばかりだった。

”ずっと、か…本当にそれが叶うものなら”

キルヒアイスがそんなことを考えながらラインハルトの顔を自分の方へと向けさせると
自分の唇を辿るキルヒアイスの指先をラインハルトがその手にとって愛おしそうに口付けた。

「…そんな顔を、するな。キルヒアイス…オマエの言いたいこと、
オレが分からないとでも思っているのか?」

後継者問題である。

皇帝となったからにはその世継ぎが必要になる。
近頃では見合いの話が嫌でもラインハルトの耳に入ってきていた。

ラインハルトの皇帝としての最終目標は皇帝を必要としない自治を作り上げることにあった。
だがそれはまだまだ一代では不可能なことであり、時間が必要なものだ。

「…オレに、女が抱けると思うか?」
「世継ぎは必要です…私があなたを抱くように抱けばいい」
キルヒアイスの言葉にラインハルトが信じられないものを見るように見つめ返す。

「オマエ、それ…本気で言っているのか?」
「勿論…それでも私はずっと貴方の傍にいて貴方を想い続けることしか出来ないでしょうけれど」

キルヒアイスはそういって自分の頬に当てられているラインハルトの手を
両手で握り締めながら目を伏せて答える。

「では仮に…オレが皇妃を娶ったとしよう。その子供、オマエは愛せるのか…?」
「愛せます…他ならぬ貴方の血を分けた御子です。
きっと…貴方に似て天使のように美しい御子であることでしょう」

”強い貴方の傍に在るために…私は今よりさらに強くならなくてはならない。その全てを許せる強さを…”

ラインハルトはキルヒアイスの全てを許すという。
だからキルヒアイスもラインハルトの全てを許せとラインハルトは言うのだ。

この事件を経て二人は互いの存在に勝る
確かで大切なものなどこの世のどこにもないことを知った。

キルヒアイスの即答にラインハルトはキルヒアイスの新たな決意を再確認した思いだった。

実際そのような事態になればやはりどちらも苦しむだろうが
キルヒアイスにとってラインハルトの存在そのものとその問題は比べられるものではないことなのだ。

ラインハルトにとってキルヒアイスの存在がそうであるように。
キルヒアイスの言葉で改めてそのことをラインハルトは身に染み込ませた。

「…今すぐに、とはいかないが。いつか、オマエにオレの子供を抱かせてやってもいい」
「ラインハルト様…?」
そういいながらラインハルトはキルヒアイスの頬を優しく撫で上げる。

「だが…オレはオマエ以外の人間を愛せそうにない…だから、
その子はオレの代わりにオマエが愛してやってくれ」

「………ッ!」
この世の終わりを見届けたような儚い笑顔でラインハルトはそう告げた。
だがキルヒアイスにとってそれはこれ以上にない言葉だった。

キルヒアイスはラインハルトのその言葉に熱い抱擁をもってそれに答える。

”この想い、今まで何度身体を重ねてもあなたに言葉で伝えることがどうしても私には出来なかった。
だがあなたはそれをいともたやすく口に出来てしまうのですね…こんな時私はいつもあなたには
永遠に敵わないのだということを思い知らされる…”

その後、二人はベッドにその身を横たえさせながらいろんな話をした。

出会ったときのことから今までのことまで
それはまるで御伽噺を話すように二人は夜を明かす程語り続けた。

そして二人が最後に話した事。

「…それって、いわゆる駆け落ちです、か…?」
「そう…いつか、全てを終わらせることが出来たら二人で誰もいない遠い所にいこう」

それは幼年学校にいた頃二人で語りあった夢の話だった。

「宇宙を手にいれるのに10年余り…あと10年でそれを成し得ないなんてオマエは言わないよな?
これから先もオレ達に叶わないことなんて、ない」
「ライン、ハルト様…っ」

ラインハルトはそうしてキルヒアイスの頭を撫でながら
最後に話をこう締めくくったのだった。

「…それまではオレが皇帝を続けてオマエを食わせてやる。
だがそれから先オレは働かないからな…オマエに養って貰うことにする。
だからその時がきたら今度は、オマエの夢を二人で叶えにいこう?」、と。

二人はこの時からまた新しい夢を見始める。
その夢もまた今の二人には先の見えない遠い未来のことだ。

だがその手で夢を実現させて宇宙を手にいれたように
今度の夢もまたきっと二人は叶えることが出来るだろう。

暗闇の開けた獅子の泉に静かにその年の初雪が舞い降り
その雪を眺めながら二人はやがてくる新たな年を迎えようとしていた。


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